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〜一周年 U〜
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〜潮時U〜
〜潮時V〜
〜潮時W〜
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■第十一章
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〜回想U・茉莉〜
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■第十二章
〜危機T〜
〜危機U〜
〜危機V〜
〜危機W〜
〜危機X〜
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〜選択U〜
〜選択V〜
〜選択W〜

最終章

あとがき

■「NOVEL TRESOR」
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第十章『潮時』X



つかつかと駆け寄り、里菜が茉莉の ( ほお ) めがけて ( ) を振りかざした。
茉莉がそれを ( ) ( ) るように回避したので、里菜の腕はぶん、と空を切り茉莉に ( とら ) えられた。

洗練 ( せんれん ) された、 ( おだ ) やかな空気に包まれた空間が、 緊迫 ( きんぱく ) ムードに変化した瞬間である。

「ちょっ、説明するから、こっち」
自分たちに向けられている好奇やいかにも迷惑といったような視線を気にして、茉莉が部屋へ、と ( うなが ) した。
里菜は不満げに茉莉の手を振り払い、無言でそれに従った。

茉莉の宿泊している客室はスイートであった。
角部屋で、浴室から外の景色が見えるタイプの 優雅 ( ゆうが ) な間取りになっている。
「…だれも、いないの?」
スイートと知って、里菜が不安そうに訊いた。
「独りだよ」
「…帰ったの?」
里菜が今度は少し強い口調で訊いた。
「ずっと、 ( ひと ) りだってば。」
「嘘。だったら何で」
「店の事でいろいろあって…独りで考えたくて…」
茉莉の歯切れの悪い物言いに、里菜は更に口調を荒立てる。
「嘘、嘘っ。だってお店でなんかあったときはいつもあたしに愚痴ってくるじゃんか、ホントは女関係なんでしょ」
「ん…と…」

茉莉は言いかけた言葉を呑み込んで、暫く考えていた。
…本当の事を言ってしまったら…里菜を深く傷付けるだろうな…でも、このままでも、勝手に疑って、傷付いていっちゃうんだろうな…
そんなことを思いながら、ゆっくりと、 口唇 ( くちびる ) を動かしだした。
「…琴璃さん…」
「え?」
「寝たんだ。俺。」
「は?どうゆう意味?」
「だから、寝たの、したの。セックス。」
「は?変な冗談やめてよ。」

わからない、理解りたくないといった表情で、立ち ( ) くす里菜の声が、次第に ( ふる ) えだした。
「仕方なかったとはいえ、俺、最低のことしたよ。ごめん。ごめん…」
茉莉は里菜の目を見れなかった。
里菜は大きな黒い ( ひとみ ) をことさら大きく見開いて、その 下瞼 ( したまぶた ) に溢れんばかりの涙を湛えて茉莉をじっと見ているのだ。

今更ながら、自分の犯した ( あやま ) ちがどれほどかということを、思い知った。後悔しても時は巻き戻らない。
理解 ( わか ) ってはいるがこれが夢であってくれたならどんなにかと、ただ里菜の次の言葉を待つのみだった。
「ごめんね…」
「え…」
意外すぎるほど意外な里菜の言葉に顔をあげると、里菜は大粒の涙を絶え間なく ( あふ ) れさせながら、 ( ふる ) えた声で続けた。
「言わせて…ごめん、ね…苦しいこと、言わせて、ごめんね…」
「う…いや、あの、怒らないの?」

なぜ里菜が謝っているのか、茉莉にはまったく 理解 ( わか ) らなかった。
「あたし、聞いて、ショックだよ。でも、よっぽどのことがあったんでしょ?茉莉、すごく苦しそう。ちゃんと聞くから、最初から話して?」
「里菜…」
それから、茉莉は昨日の出来事を最初から全部話した。

里菜も普段の琴璃をよく知っているだけに、 切迫 ( せっぱく ) した状況をよく理解した様子で、うん、うんと時折 相槌 ( あいづち ) を打ちながら茉莉の話に耳を傾けていた。
自分も苦しい筈なのにもかかわらず、相手を思いやる里菜に茉莉は、更に深い愛情を抱いたのであった。
「疲れたでしょ、出勤まで、横になろう?」
里菜が真っ赤な目でそう言いながら、微笑んだ。

茉莉は、真夜中に 身繕 ( みづくろ ) いをして 眼下 ( がんか ) 繁華街 ( はんかがい ) へと向かった。
里菜は翌日正午のチェックアウトまで、ここで茉莉を待つといって、眺めのいい浴室から茉莉を見送った。
「はう…疲れた、なと…」
大きなバスタブにちょこん、と体躯座りしていた里菜が独り言を呟く。

「はぁぁ、んー」
大きく伸びをし、 ( あし ) を投げ出し、茉莉の話を頭の中でリプレイし始めた。
単なる浮気ではなかったことに安堵したものの、責めるに責められない事情に、行き場のない感情が心の中で 渦巻 ( うずま ) いていた。
「ぷっ、はぁ」
両手で湯をすくい顔をぱしゃ、と拭うと、里菜の ( ほお ) には 水滴 ( すいてき ) ( したた ) っていった。




茉莉が出勤すると店に敦司が来ていた。
ガラス張りのカウンターに敦司とReveの天海 丸が腰掛けていたのだ。

敦司は茉莉に気がつくと手招きをし、丸はにこりと茉莉に 微笑 ( わら ) いかけた。
「丸さん、こんばんは。敦司さん、おはようございます。」
茉莉の内心は 穏頬 ( おだ ) やかではなかった。
言葉を発した 拍子 ( ひょうし ) に口から心臓が飛び出るのではないかというほどに 緊張 ( きんちょう ) していた。

「なあ、昨日、琴璃家まで送ったろ、その後どうした?」
「え…と、すぐに帰りました。」
いきなり心の中を見透かされたかのような話題をふられ茉莉は 動揺 ( どうよう ) を精一杯隠した。

「そうか。…あいつ、携帯替えやがったぜ。」
「え…」
「なにか、心当たりないか?」
「いえ…なにも…」
あります、とはさすがに言い ( がた ) い。
しかしそんなことになっているなどとは思いもしなかった。

「マンションの鍵も替えていやがるんだぜ。驚きだろ。まいっちまうよな、まじで。」
「…」
「まあ、なにか知らねえが、俺に見切りつけたってことだろ。他にいい男でもできたんだろうよ。」
「そんな…」
茉莉は誤解を ( ) くためにすべてを話そうかと口を開きかけたが、敦司が続けた。
「夜の出会いと別れなんて、 所詮 ( しょせん ) こんなもんだよ。なあ。」
「だな。」
丸が静かに ( うなず ) いた。
茉莉は、そこに立ち ( すく ) むだけだった。

第十章終り
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