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■第一章
〜トレゾアの夜明け〜
■第二章
〜葛藤〜
■第三章
〜嬢の恋ゴコロ〜
■第四章
〜疑い〜
■第五章
〜イベント〜
■第六章
〜接吻〜
■第七章
〜常套句〜
■第八章
〜バースデー 上〜
〜バースデー 中〜
〜バースデー 下〜
■第九章
〜一周年 T〜
〜一周年 U〜
〜一周年 V〜
■第十章
〜潮時T〜
〜潮時U〜
〜潮時V〜
〜潮時W〜
〜潮時X〜
■第十一章
〜回想T・里菜〜
〜回想U・茉莉〜
〜回想V・琴璃〜
■第十二章
〜危機T〜
〜危機U〜
〜危機V〜
〜危機W〜
〜危機X〜
■第十三章
〜選択T〜
〜選択U〜
〜選択V〜
〜選択W〜

最終章

あとがき

■「NOVEL TRESOR」
ご感想・登場させたい人物など書き込みお待ちしております。今後の参考にさせて頂きます。
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第十一章『回想』U・茉莉


「…そうですか。」
茉莉は小さく一礼して、一歩、後ずさった。
黒く、厚い(とびら)が、暗い音を立てて()ざされた。
もう鍵穴にささらない鍵を(にぎ)()め、茉莉は(しばら)くその場を動けなかった。
かつて、里菜が住んでいた部屋には、別の生活の匂いがした…

10月。前月のバースデーイベントに来店してもらった同業者へのお礼廻(れいまわ)りや、女性客のアフターフォローに追われていた茉莉。
行動のきっかけは、何気(なにげ)ないものだった。
ふと、忙しさに息をついたとき無意識(むいしき)に里菜の番号に電話をかけたのが数時間前。
しかし、それは解約(かいやく)されていた。
茉莉はいきなり心にぽっかりと穴が開いたのを感じた。
焦燥感(しょうそうかん)()られ、里菜が勤めていたソープ、ヘルス、と電話をかけたが、時既(ときすで)に遅くいずれも退店したとの返答が返ってくるばかりだった。

そして里菜の部屋に、正確には里菜の部屋だった部屋、に、足を運んだのだ。だが、この始末であった。
ほんの一ヶ月ほどのあいだに、茉莉は里菜を見失ってしまった。

「あいつ…」
茉莉は愛車を運転しながらも、言いようのない後悔(こうかい)目眩(めまい)(ともな)うほどに頭の中で(ふく)らむのを感じた。
…俺、間違ってたのかな…あいつはこんなことでは(はな)れないって、タカを(くく)ってた…
…なんだかんだ言っても電話したら、やほ、とか返事するもんだと思ってた。
タカを括る…?それは、どんな関係だ?さよならなんて手紙まで(もら)っといて、俺は何の余裕でそんな悠長(ゆうちょう)(かま)えていたんだ?
結局売り上げ立ててくれたから?そうか、それだ!
てゆうか、あいつの手紙、俺のこと好きって書いてたよな…
じゃあ何でさよならなんだよ…意味理解(わか)んねえよ、好き、ってなんだよ?
…好きって、なんだろう…

自問自答(じもんじとう)の迷宮に入り込み、茉莉は(さら)に混乱せざるを得なかった。
(おぼろ)げな記憶でしかない、里菜からの手紙の内容を必死に頭の中で検索した。
きちんと思い出せずいてもたってもいられなくなり、茉莉はアクセルを踏む脚に力を込めて、自室(じしつ)のあるマンションへと急いだ。



それは、何度も読み返してしまうような、(ほお)奥端(おうたん)がきりりと痛むような、切実(せつじつ)なラブレターだった。
(もら)った当日はもちろん(おとろ)きはしたが、忙しさに()いが重なってか細部(さいぶ)を理解してはいなかったと今、把握(はあく)した。
途端(とたん)に、かつての恋人、法子と別れた時期の、恋に落ちるのはもうたくさんだと歯をくいしばった記憶が(よみがえ)る。
恋人と呼ぶ存在の、ただ空気のような、存在感のない、実体の見えない安らぎ。
茉莉はその場所を失ったときの静かで重たい衝撃(しょうげき)を、今また確かに感じている自分を(さと)っていた。
ホストをしている限りは誰も好きにならないであろうと、なるまいと、そう、してきた自分が(くず)れ行く様を。
実際、自分がなんとも思っていない相手からこのテの手紙を貰ったとすれば、ホストとしてはストーカーにでも()いそうな、そういう嫌な気分になってもおかしくはないのだ。
茉莉は、そんな内容の手紙を穴が開くほど読み返す自分に、嘲笑(あざわら)いが込み上げてきた。
「あは、は。恋愛売ってて、自分の気持ちに気付かないなんて…馬鹿(ばか)すぎ、俺。」
「そう、お前は馬鹿!」
え!?

突然良く見知った顔と声で、からかうように笑われた。
白鳥 仁さん?歌舞伎町DeVILの!? なんで俺の部屋に!?
「ほんっとに馬鹿だなぁ、お前」
敦司さんまで!
「しかも俺の女寝取(ねと)りやがんだぜ、こいつ」
え!? いや、そんなつもりは…
「ひどい、茉莉くん、お金になると思ってわたしを抱いたのね…」
琴璃さん!? 誤解(ごかい)です!そんな…
タオルケットに包まった裸の琴璃まで現れ、次々と顔見知りに非難(ひなん)される茉莉であったが、いまはそれどころではないし、ましてやまだ琴璃とは知り合っていないし抱いてもいない、そう思った。
「あの、でも俺、里菜を探さなきゃいけないんで」
「さとなはディオスで遊んでるから探さなくっていーよん、ねー」
「ねー」 突然あたりがきらびやかになり、ディオスの店内ではしゃぐ里菜とホストたちが現れた。
なんだ?なんなんだ?やめろ、里菜に触るなってば…

茉莉が(くる)(まぎ)れに首を振り、はたと気付くと目の前で里菜が眠っていた。
夢、かぁ…
「よかった」
小さくそう(つぶや)いて、里菜の髪をそっと()でると、茉利はまた、(まぶた)を閉じた。

続く
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