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■第一章
〜トレゾアの夜明け〜
■第二章
〜葛藤〜
■第三章
〜嬢の恋ゴコロ〜
■第四章
〜疑い〜
■第五章
〜イベント〜
■第六章
〜接吻〜
■第七章
〜常套句〜
■第八章
〜バースデー 上〜
〜バースデー 中〜
〜バースデー 下〜
■第九章
〜一周年 T〜
〜一周年 U〜
〜一周年 V〜
■第十章
〜潮時T〜
〜潮時U〜
〜潮時V〜
〜潮時W〜
〜潮時X〜
■第十一章
〜回想T・里菜〜
〜回想U・茉莉〜
〜回想V・琴璃〜
■第十二章
〜危機T〜
〜危機U〜
〜危機V〜
〜危機W〜
〜危機X〜
■第十三章
〜選択T〜
〜選択U〜
〜選択V〜
〜選択W〜

最終章

あとがき

■「NOVEL TRESOR」
ご感想・登場させたい人物など書き込みお待ちしております。今後の参考にさせて頂きます。
TRESOR掲示板

■TRESOR作者宛メール
tresor@on-sta.com

■TRESOR公式サイト
www.on-sta.com/tresor/

第三章 〜嬢の恋ゴコロ〜
 「もしもし、里菜?俺だけど、もう着くから。」
青梅街道 ( おうめかいどう ) から 職安通 ( しょくあんとお ) りへと抜ける道を走りながら茉莉は里菜に電話をかけていた。
「うんっ。じゃあさ、 風林会館 ( ふうりんかいかん ) の向いんとこに居るね。」
「わかった。あと2分な。」
「はーい。」

電話を切ると、間を空けずに着信音が鳴った。店からだ。
「もしもし。…はい。すみません…はい、今、運転中でこれから客と待ち合わせです。…はい、1時半までに行きます。…はい、じゃ、失礼します。」
携帯を握っていた手のひらが汗でじっとりとしていた。
茉莉はこのまま歌舞伎町を通り過ぎたい気持ちで、一杯だった…

待ち合わせの場所には ( すで ) に里菜が立っていた。携帯を操作している。
サイト見てんのかよ…茉莉は舌打ちをした。と、すぐに里菜が茉莉の車に気付き、駆け寄って来た。

「おはよー。ね、見て見て。チェーンメールなんだけどさ、超可愛くない?」
茉莉は車を降り里菜の携帯を ( のぞ ) き込んだ。
里菜が見ていたのはメールで送られて来た絵文字だった。天使の絵文字だ。良く出来ている。

「これをね、5人に転送すると天使が願いを叶えてくれるんだってさ。あたし思わず送っちゃったよ。」
そういって屈託なく、子供のように笑う里菜になんだか救われたような気がした。サイトで何かあってもいつも里菜だけは何も言ってこないのだ。サイトの存在を知らないのだろうか…

「何をお願いしたのさ?」
「内緒。お願いごとは叶うまで、誰にも言っちゃだめなんだよ。」
里菜が、めっ、という顔で上目遣いに茉莉を見て、また子供のように 微笑 ( ほほえ ) んだ。

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食事、といいながら入ったのはパセラのカラオケだった。
実際、歌うわけではないのだが、里菜がここのハニートーストに目がないのだ。

他の指名客なら鮨だ、焼肉だ、となるのだが、里菜となるとなぜか調子が狂う。店ではけっこうな額を使いたがるくせに、外ではリーズナブルでマニアックなバーや、レストランに連れていかれることが多い。
今日のような時間のない時は ( もっぱ ) ら、ハニトー、なのだ。

里菜は歌舞伎町のヘルスで働いている。まあ、そこそこ可愛いタイプで、それなりに人気もあるようだ。
時々、雑誌で見かける。収入が幾らくらいあるのか定かではないが、週に1、2回飲みに来て、だいたい月に6、70万程使っていく。そのほか、友達と遊んでいたり、こうして同伴の時の食事代なども考えると、100万以上は少なくとも稼いでいるのだろう。もっとかもしれない。10代の収入とは思えない額だ。

顔と同じくらいの大きさはあろうかというハニートーストを、横に添えられたナイフとフォークを無視して大胆にしかし実に器用に手でちぎり、おいしそうにほおばる里菜を見ながら、茉莉はそんなことを考えていた。

「お腹、減ってないの?もしかしてさ、まだ、具合わるかったりして?」
注文したパスタに手をつけないでいると、心配そうに、里菜が ( ) いた。
「あ、大丈夫。それ、ちょっとちょうだい?」
「なんだ、食べたかったなら早く言ってよー。もうおいしいとこみんな食べちゃったよ。」
「いいから、ミミんとこ好きなんだよ、蜂蜜つけて」

茉莉は、あーん、と大きく口を開けた。
ひとしきり食べ終わり、里菜が、そろそろじゃん、と ( うなが ) した。
茉莉は、重い気持ちを思い出して、無言のまま里菜のあとに続いて店を出た。

店に向かう途中、あ、と里菜が通りの反対側にある駐車場を指差した。そこに居たのはホスト界一有名なキャッチコピーを持つ男、 貴嵜 健 ( きざき たけし ) である。

「アナタの人生変えちゃいます」という、アレである。
埼玉の自分の店「E・S」と、こことを、行ったり来たりしている。自ら「永遠の色恋キング」と ( うた ) うように、彼の指名客は ( ほとん ) どが色恋したさに彼を指名しているようだ。

類いに漏れなく、隣にぴったりと女性が寄り添っていた。
歩きづらそうだなと思っていると、車に乗るか乗らないかの所でもう、カラダも唇も、磁石のように合わさっていた。
「この時間から車に乗ってぇ、ドコ行くんだろうね?」
里菜が 意味深 ( いみしん ) に幹部の出勤てあと2時間後だよね、とニヤニヤしている。
「あのお客さんの人生も、変わっちゃったのかなぁ…俺と健さん、何が違うんだよ…」
そんな里菜をよそに茉莉は、心の中でそう、 ( つぶや ) かずにはいられなかった。

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22時を過ぎた辺りからめっきり暇になった店内を 徘徊 ( はいかい ) していた里菜は茉莉への電話を 切った後、同じくホスト通いをしている紗絵の待機している部屋のドアをノックした。

「紗絵ちゃん、あけていい?」
「どーぞー」
ドアを開けると紗絵は雑誌を拡げていた。
「いまさぁ、"ロア"見てて。ちょーかっこよくね?」
"ロア"、というのはお水や風俗といった高収入アルバイトの情報誌である。
ホストのページも充実していて、有名ホストのグラビアやインタビューなどを読む事ができる。
里菜が雑誌を覗き込むとホストクラブの広告がぎっしり並ぶページの中で、紗絵の指 が指す写真が目に入って来た。

「ああ、一茶さんじゃん。」
「ああ、はないでしょ。かっこいいから、切り抜いちゃう。」
「またぁ?もういっぱい同じのもってるじゃん。」
「あれは"マルマル"の。こっちのが紙ぶ厚いの。だから保存版。」
"マルマル"も"ロア"と同じ類いの情報誌だ。この2冊が紗絵の愛読書である。

紗絵はトップダンディーに通っている。話で分かる通り、 滝沢 一茶 ( たきざわ いっさ ) を指名している。
「ほんと紗絵は一茶さん好きだよねー。でもさ、紗絵がゴチできなくてもいーなんて、 不思議。」
「いーじゃん別にぃ。一茶は紗絵のアイドルなの。てゆーか、里菜早くゴチんなよ? 新人でしょ?」

紗絵の興味は、茉莉の話である。
( こく ) ってもいないしさ、告られてもないよ。だからトーゼンなんもなし。」
「なんでぇー、新人だったら即ゴチでしょー!?」
「だって…本気になっちゃったんだもん。そしたらさ、色恋されてもさ、辛いよ。」

紗絵と里菜は同い年で、一年程前に十代特有の小遣い欲しさと好奇心でこの業界に入 り、新人どうしという事で仲良くなった。数カ月経つと、またもや十代特有の好奇心 でホストクラブに出入りするようになったのだ。

はじめのウチは大金を使うつもりもなく、初回料金で誰をゴチれるか、つまり誰と寝 れるか、をゲームのように楽しんでいたのだが、里菜は茉莉と出会って、そういう気 になれなくなっていたのだ。

「茉莉、あんまり枕って聞かないし、でもさ、付き合って、っていったら、絶対オッ ケーするもん。色恋だから。」
「だろうね。好きっていわれたら、ピコーンって、スイッチ入るのがホストだよね。 よっしゃ、引っぱれる、って。」
「うん。そぉいうお仕事だからね。うちらと同じじゃん?好きって言われたらさ、指 名欲しいからなんとなく繋げようとするもん、あたしも。」

男も女も、歌舞伎町のような繁華街では、本音と建て前が背中合わせなのだ。それで も同じように指名を貰うにせよ高価なプレゼントを貰うにせよ、女の方が ( いや ) らしくな いのはやはり男が女に ( おご ) る事が常識めいた一般社会の影響なのだろうか…

「そういえば茉莉クン、派手に打ち上がってたけど、電話、なんて言ってた?」
「なんも。サイトの話なんて、したことないもん。」
「そうなの!?なんでよ?」

紗絵は今どき?というような顔をして、変な声を出した。
「だって、そんなの聞いたって嘘だよって言うに決まってるしさ、だからはじめから 分かってる答えなんて、わざわざ聞く必要無いじゃん?」
「そういうもん?」
「うん。それにさ、そういうので茉莉が凹んで、ホスト辞めちゃったら、逢えなくなっ ちゃうしさ…」

里菜は、茉莉がホストであるということに、ある種の安心感をおぼえていた。風俗の 仕事を隠さなくてもいい人間であり、そして自分が逢いたいと思えば、店に行けばい つでも逢える、それがホストだからだ。

「あー、特に新人だしねー」
紗絵も、これには納得がいった様子だった。

時計を見やって、これから茉莉とご飯だから、と里菜が紗絵の部屋を後にすると、紗 絵はまたひとりで雑誌を眺めて嬉しそうにしていた。

「一茶、かっこいいー…」

第四章へ続く
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