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■第一章
〜トレゾアの夜明け〜
■第二章
〜葛藤〜
■第三章
〜嬢の恋ゴコロ〜
■第四章
〜疑い〜
■第五章
〜イベント〜
■第六章
〜接吻〜
■第七章
〜常套句〜
■第八章
〜バースデー 上〜
〜バースデー 中〜
〜バースデー 下〜
■第九章
〜一周年 T〜
〜一周年 U〜
〜一周年 V〜
■第十章
〜潮時T〜
〜潮時U〜
〜潮時V〜
〜潮時W〜
〜潮時X〜
■第十一章
〜回想T・里菜〜
〜回想U・茉莉〜
〜回想V・琴璃〜
■第十二章
〜危機T〜
〜危機U〜
〜危機V〜
〜危機W〜
〜危機X〜
■第十三章
〜選択T〜
〜選択U〜
〜選択V〜
〜選択W〜

最終章

あとがき

■「NOVEL TRESOR」
ご感想・登場させたい人物など書き込みお待ちしております。今後の参考にさせて頂きます。
TRESOR掲示板

■TRESOR作者宛メール
tresor@on-sta.com

■TRESOR公式サイト
www.on-sta.com/tresor/

第五章 〜イベント〜
 里菜の席に行く前にしなければならないことが、と茉莉は思った。

ウェイターをしているまだ日の浅い従業員に、敦司さんを、と声をかけ、バーカウンターに寄り掛かり眼下に広がる 不夜城 ( ふやじょう ) と呼ばれるこの街を見下ろしていると、この店に初めて訪れた時の事が茉莉の脳裏に ( よみがえ ) ってきた。

その頃の茉莉には、この街の全てを手に入れることさえ出来るような気さえしていたのだ。
新人として同期に入った人間は、数える程しかいない。
それ程に厳しい、世界なのだ。
キャッチに出てもどんなふうに声をかけても無視され、時には振り向きざまに ( ほほ ) を叩かれたこともあった…

広すぎる店内で卓が分からなくなって、注文を間違えたり、ヘルプにつくテーブルを間違えてよく怒られたりもしていた。客が怒れば指名者にも、その何倍も怒られる。

理由がきちんとあればまだいい。場合によっては、先輩のムシの居所が悪いというような 理不尽 ( りふじん ) な事で接客中でも構いなくストレス発散のターゲットにされるのであるから、全く意味が分からない。

酒は嫌いではなかったが、今は好んで飲みたいなどとはもう思えなくなっていた。従業員の手洗いを酒臭い血の海に変えて店を辞めていった者も、いた。

「ホストが、こんなに辛い仕事だなんて、知らなかったなぁ…」
「店に来ないで、何をしていたんだ?」
独り言を呟いていると敦司が真顔でつかつかと向かってきた。
茉莉は慌ててカウンターから離れ姿勢を正すと、すみませんでした、と深く頭を下げた。

「続ける気があるんなら敢えて何も言わない。どうだ?」

良くしてもらった以上、何も言わず立ち去るのは、なしにしようと考えての今日の同伴出勤だった。
これ以上続けては行けませんと、言うつもりでここに来たのだ。

「そのお話なのですが…」
「まぁ、店が終わってから聞くから。」
色好い返事ではないと悟ってか、敦司は茉莉の言葉を遮った。

「いらっしゃいませぇー」
エントランスホールから従業員の声。
茉莉も反射的に呼応して声を張りながら、敦司に 会釈 ( えしゃく ) してフロアに向かおうとした。
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「敦司さん、これで25組目だぜ…」
「すげぇよなぁ、今のってトップダンディの 慎吾 ( しんご ) さんだよな…」
クローク係の新人ホスト二人が ( つぶや ) きあっていた。

「…あのさ、今日ってイベントなの?俺休んでたから知らなくて」
尋常 ( じんじょう ) でないその話を耳にして茉莉は二人にそう、 ( ) いた。
「いえ、イベントはないです。俺らも理由わからなくって」
「そうなんだ。ありがと。」

すっきりしないな、と思いつつも、茉莉は里菜の待つフロアへと向かっていった。里菜の席は、中2階の通称「コVIPシート」の出入り口から3つめのテーブルだった。

いつもなら二つあるコーナーの奥のほうか、もう一段階段を上がった所にあるほぼ個室状態の「VIPシート」に案内出来るのだが、こう客が多くてはそれも仕方ない。
目の前の通路は座った時の目の高さあたりまで水槽で ( おお ) われて、吹き抜けの半地下を目隠ししている。 足許 ( あしもと ) の方からライトアップされてきらきらと水泡に踊る ( まばゆ ) い宝石たちが幻想を誘っていた。

「ね、ね、凄いね、今日ってさ、 ( ほとん ) ど敦司さんのお客さんなんだってね。」
店内の状況を知って興奮した様子の里菜。
「うん、そうみたいだね」
茉莉はそういいながらフロアをまじまじと見渡してソファに座った。
「しかしほんとに凄いな…」
「茉莉もさ、こんなふうになったら凄いね」
「いや…俺は…」

もう辞めるんで、とは、さすがに言えなかった。
「よしっ、未来のナンバーワン茉莉を祝して一本行こうか?ピンクでっ!」
里菜が、雰囲気に酔うタイプなのは茉莉も知っている。イベント事に便乗して盛り上がりたがるのだ。しかし混んでいるとは言え何もない日に訳の分からない理由をつけてピンク、は少しやり過ぎなんじゃないかと思った。

「普通のドンペリにしようよ、白で、ね?」
「なぁ〜に?心配無用だよ、掛けとかしないからさ。ちゃんとあるよ、お金ならさ。」
しかしこんなに卓を重ねて…指名客は不満を持たないのだろうか、と、茉莉は思った。これが自分なら、間違いなく自殺行為だろう、と。もっとも、こんなに自分の客がいれば、の話だが。

「いいじゃねぇか、ピンドン飲ませてやんなよ。しかし…おまえには中毒性がないな。イイ男かもしれないが一遍見たら気が済む。」
隣の席は敦司の卓だった。ちょうど敦司が戻ってきたところだ、と、突然振り向き面と向かってそんなことを言い放たれ、二人は 唖然 ( あぜん ) とするより他なかった。

「酔ってるんですか」
( あせ ) った茉莉は平静を装って敦司を止めようとした。
「里菜ちゃん、こいつ噂の始末もできないような駄目ホストだからよ、茉莉辞めたら俺にしな?」
間に挟まれたカタチになってしまった里菜は、きょとんとして交互に顔を振りながら二人の顔を見ていた。

「何言い出すんですかっ」
あはは、と悪びれず笑いながら、敦司は指名客とはろくに話もせず早々に席を立って行った。

第六章へ続く
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